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『卵をめぐる祖父の戦争』 『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』 『世界史の叡智』

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ文庫NV)

デイヴィッド ベニオフ / 早川書房

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デイヴィッド・ベニオフ著『卵をめぐる祖父の戦争』読了。
とりあえず、『TROY』の脚本の人の小説なので、それだけの理由で購入し、今になって読み始めました。
一気に読み終えました。
面白かった。読み終わったときも、まだその世界から抜けてこれず、ぼんやりしてしまった。
だから、友情モノはやめてほしいんだってば!!むやみと涙もろくなるからね!!!


とりあえず、あらすじの説明をば。
時は、第二次世界大戦時、舞台は包囲されているレニングラード市内とその周辺です。
ドイツ軍に包囲されて飢餓状態で市民全員飢えまくってる時に、
主人公の17歳の男の子は敵の死骸からナイフ一本取ったという理由で
味方の兵隊に銃殺されそうになり、
それを免れるかわりに、脱走兵の若者と一緒に、
偉い人の娘さんの結婚式に花を添えるウェディングケーキの材料の
卵を1ダース探してくるよう命じられる、という


なんでやねん!!!


というはなし。なんでやねん、というツッコミは、設定がおかしいとかじゃなく、
なんでこんなばかばかしい事に命をかけさせられて、いろんな人が殺されて、
もっと多くの人がひどい目に遭わないといけないんだ!という憤りの叫びであります。
でも、実際こんなもんだろうな。世の中いい人ばっかりじゃないだろうし。
なんで、なんでこんないい人がこんなアホな死に方せんといかんのだろう、というような局面が
きっと戦時中数え切れないほどあったに違いない。いや、今でもたぶん、山のようにある。
そのあたりが、リアルでもあり、一見その設定が荒唐無稽でおとぎ話のように見えるという理由で、
お話の中の残虐性をそんなに生々しく感じなくて済む安全弁にもなっていうという…

以下、雑感・

・レニングラードって、ぼんやり東独のどっかだと勘違いしてました。アホです。
どう考えても、ロシアです。以前のサンクトペテルスブルグですよ!!!
(地元民の愛称はピーテルらしい)

・語り手は著者で、著者が祖父から聞いた話をもとに書いたものが本作である、という、
枠物語の中の物語として、レニングラード包囲戦時の祖父の若い頃の冒険が語られていきます。
なんか、爺ちゃんから戦争の話を聞くというシチュエーションが、自分の祖父を思い出させて、
懐かしいやら切ないやら。
おじいたん…。
父方も母方もどっちのじいさんも、聞いたら戦時中の話をしてくれたもんですよ…。
特に父方のじいさんはねだれば快く話してくれたもんじゃった…
(もともと気のいい話好きなじいさんだった)
(でもって、ど田舎の貧乏農家の何番目かの息子に生まれたじいさんは、
三食と寝る場所が提供されるから、というだけの理由で一兵卒として軍隊に入った)
まだ激化する前に負傷して退役したからかもしれないけど、
(流石に女の孫にそこまで残虐な話はそもそもしないだろうし、)
祖父が話してくれるのは悲惨な負け戦になる前の戦線の話で、
船の上からイルカを見たとか、イギリス人に車に乗せてもらったとか、
一日中行軍でしんどかったとか、
結構、本作と同じように、若い男の子の青春物語の態を醸していて、
その記憶があったもんだから、より一層、この小説をリアルに読んでしまいました。
もちろんじいさんの思い出話よりもこの物語の状況はもっと切羽詰まってて
危機的な時期が長いんだけども、
そんなときでも、友達同士ならアホ話するし、性的なことに興味はあるし、
美味しいもの食べたら嬉しいし。こんなもんだよなあ、と。
ずーっと深刻なわけでも、ずーっとお気楽なわけでもなく、一時的に危機に陥るけど他の大部分の時間は
くだらない日常業務に費やされてたり、大したこと考えてなかったりするもんだよな。

・とはいえ、戦争中の物語ですから、通常の秩序は当たり前のように崩壊しています。
凄惨なエピソードがこれでもかというくらいおてんこもり!
でもそれがそれほど血なまぐさい印象を与えないのは、
先にも書いた、おとぎ話っぽい話の枠組みのせいか、はたまた極寒の地だからなのか。
死体も何もかもすぐに凍っちゃって、あんまり液体が流れてる印象がない。
(後、事件の凄惨さより、主人公の空腹の方がつらそう)
でも、一か所だけ、流石のわたしも「ぎゃーーーー!!!!やめてーーーー!!!!!!」
リアルムンクの叫びを実演しそうになった箇所がありました。思わず3行とばしに飛ばし読んだ。
暇な人はどこか当ててみてください。

・あらすじを読んで、主人公とコンビを組む、コーリャという青年、
頭はいいけどもっとこすからい皮肉っぽい人物を想像してましたが、
蓋を開けてみると金髪のイケメンで、
天真爛漫で伸びやかであけっぴろげな兄ちゃんだった。
アポロン:ヘルメス=7:3くらい。
いい人ですよ。
大胆で明るいだけじゃなく、意外と繊細なところもあったりするので、
その辺りのバランスがたまらん!

・で、主人公のレフにはものすごい共感率高かった。
自分のことを臆病者だと自覚してるあたりが特に。
だから、年上のコーリャに対しては、憧れや友情もあるけど、その大胆さに対しては
妬みの感情があり(自分にはけっしてあんな風になれないという確信と諦めがある)、
そのあたりの入り混じり方が、ああ、めっちゃ分かる…と。
なので、コーリャに対しては、ものすごいレフ視点で見てました。
いつもならいい男だなあと素直に思うところを、
今回は、ダメなところもあるし、馬鹿だと思う部分もあるけど、最終的に
根本的なところで信頼していて、あいつは友達!と思って見てた。
でもって、祖母になる女の子には、一緒に恋に落ちました。

・そもそも、著者が祖父の話を書きとめる、という体裁なので
(もちろん、これもフィクションですよ。実際には著者の祖父母はアメリカ出身らしい)
主人公のレフは生き残ることが確定しており、その辺りは安心して読めました。
なので余計に、祖母になる人は誰だろう、コーリャの運命はどうなるんだろう、
というところがハラハラした。


早川ミステリ文庫の棚に置かれてますが、ミステリじゃないからね!
純文学でも悲惨なだけの戦争ものでもなく、青春もので主人公の成長物語の
一大エンタテイメント作品だと思う。

(※大体アホのわたしがそんな難しい本を読むはずがない。)

あまり大層に考えずに素直に楽しんでください。
数えればきりがないくらいグリム童話みたいな残酷シーンが目白押しなのに、
最後まで読むとほんわか幸せな気持になるというか、しみじみするというか、
読後感は悪くないですよ!


文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)

ジャレド ダイアモンド / 草思社

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ジャレド・ダイヤモンド著
『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』読了。
このダイヤモンドさん、『銃・病原菌・鉄』とか『文明崩壊』とかが有名な方なので
勝手に歴史学者かと思いこんでましたが、
本業は進化生物学者だったのですね…。そうか、理系の人だったのか。
俄然買ったまま読んでいない上記の2作品を読む気が湧いてきました!

それはさておきこの本。
セックスとか性交渉とか乱婚とか破廉恥な単語が頻出するので、
電車で読むには肝を据えて読まねばならん一冊です。
ちょっと気にしちゃうピュアなお嬢さんは気を付けて!
でも、書いてある内容はものすごい真面目に性について考察してあるだけなので
別にエロくないですよ、そっちを期待しちゃった方も間違って買わないように気を付けて!
その証拠に、目次は
1、人間の奇妙な性生活
2、男と女の利害対立
3、なぜ男は授乳しないのか
4、セックスはなぜ楽しいか
5、男はなんの役に立つか?
6、少なく産めば、たくさん育つ
7、セックスアピールの真実
となってて、一見目を引く見出しですが、内容は動物の最大の目的である遺伝子を後世に残すという
課題について、各々の特徴がどう働いているのか、うまく適合するためにどう進化したのか、
的な考察になっています。で、結局どうなのかといわれると、今のところこういう説が出てて
作者はこうじゃないかなと思ってるんだけど、実際に真実がどうなのかは研究途中だったりして、
「まだまだ世界は分からんことだらけだな!」という感慨に落ち着きます。
いや、面白かったよ!
以下、特に思ったこと。

・男性は狩に行って、女性は子育てして家の周辺で小動物や植物を採集して
これは双方の利益が合致するからこの形なんだとずっと思ってたけど、
実はもっと複雑なのかもしれんな、と今回しみじみ思いました。
男性側の利益と女性側の利益と、社会的な枠組みと、色々な要素が複雑に
絡み合って、その上でバランスがとれたところに夫婦間の互いの仕事の割り振りが
行われてんじゃないかと。
しかも一本道じゃないかもしれないんですよ。
ある生物の特徴について、一旦別の目的でそう進化した後、さらに良い方法が見つかって、
本来の目的と違う方向に進化の結果を転用する、という2段進化の過程が説明されてて
人間の男女間の社会的関係もそう言った複雑な変遷を経ているのではないかと
類推されてて、ものすごい面白かった。
やっぱ、単純には説明しきれないもんなんだな。

・子育てにおける男女の役割には、男女が子作りにおいて支払った投資の大きさ、
子供が自分の子であると実感できる割合がこれまた関わってて、割と納得しちゃいました。
排卵が隠されている理由についての考察も面白かった。

・後、男性が授乳するのって医学の助けを借りれば無理ってこともないらしい。
育メンが流行ってんねんから、親父も子供にちちやればええねん。

・じじばばの役割についても納得した。自分ちの家族に当てはめてみると、
じじばばがいなけりゃそもそも立ちいかなかっただろうしな。
もっと日本人は(わたし含め)人生の大先輩に対する敬意を新たにせねばらなんな、と思いました。
体力がないのは確実なので、流石に政界の第一線からは退いた方がいいとは思いますが。
誰とは言わんがあいつとかあいつとか。



野心のすすめ (講談社現代新書)

林 真理子 / 講談社

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林真理子著『野心のすすめ』読了。
職場の同僚にお借りしたので、読みました。

びみょう……。

すまん、わたしは読むのがしんどかったので飛ばし読んだよ…。
(アマゾ○レビューの星の少ない意見に一番共感した)
遠くで眺める分には極端で面白い人だよなあと思うし、たぶん、
真理子さんは頑張り屋さんなんだなとも思います。
でも、視野が狭い感じがどうしてもぬぐえず…。

…いや、年上の女性に対してこのような無礼なことを言ってはいかんよな…。
むむむ…。



世界史の叡智 - 勇気、寛容、先見性の51人に学ぶ (中公新書)

本村 凌二 / 中央公論新社

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本村凌二著『世界史の叡智』読了。
世界史の有名人51人について4ページづつさらっと書いたエッセイ風の読み物。
ものすごいさくさくすすんであっという間に読み終えました。
どっかの雑誌か新聞のコラムに連載したものをまとめたのかな?と思わせる軽い読み物です。
一人に4ページしか割いてないので物足りないですが、その分広く古代から現代まで
有名人をさらってあるので、普段考えもしない人のことも読めてその点は楽しかった。
後、人物のチョイスがマニアックだったので(笑
流石に西洋古典文学分野の方なので、古代ローマ辺りまでの
ペイシストラトスとか、デモステネスとか、ハンニバル、大カトー、カエサル、クラウディウス、
セネカ、ハドリアヌスなんかは、妥当だと思う、でも
三国志からは曹操(孔明や関羽じゃないんだ)、ビザンツ帝国はテオドラ、
インドのハルシャ・ヴァルダナ(おい、懐かしすぎで詳細を思い出せねぇ名前だぜ)、
11世紀イスラムからはヌール・アッディーン(サラディンじゃなく)、
十字軍からはフリードリヒ二世(フィリップでもリチャードでもなく)、
こんな感じで有名とはいえ一番有名なところをちょっと外した感じが面白かった。
後、エッセイ風なので最後に著者の感想ちゅうか説教みたいなのが加えられてるのも面白かった。
この本村先生、勝手に論文発表し始めたばかりの若手だと思い込んでましたが、
もうすぐ定年の結構なお年の方らしく、
そう思うと苦言もなんだかほほえましく、楽しく読めました。
チュラロンコーン(ラーマ五世)に言及してあるのは嬉しかったけど、イスラム系の人があまりにも
少ないのはちょっと残念でした。
by mi-narai | 2013-07-15 21:05 | 2013年下半期の読書
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