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『世界女神大全Ⅰ』

図説世界女神大全

アン・バリン、ジュールズ・キャシュフォード / 原書房

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アン・ベアリング、ジュールズ・キャシュフォード著『世界女神大全Ⅰ』
これまた図書館で借りた本。
女神についての神話を集めて羅列してあるだけの本かと思いきや、
旧石器時代の人々の信仰心から始まって、
太古の女神がいかにして人々の心に生まれ崇拝されるようになったか、
そして、その後父権社会の到来とともにいかにその表現を変えていったか
という、女神像の変遷を丹念に追っとります。


おおむね楽しく読んでますが、大筋は、色んなところで断片的に読んだ知識をすっきりまとめてある感じです。
以下、お?と思ったこと&雑感

「はじまり 旧石器時代の母神」部分
・ワタシの太古の大女神に対する印象の根本って、高校生の時に読んだ
『大地の子エイラ』というシリーズにあるんですが、
今この本を読んで、『エイラ』シリーズの信仰形態との類似にびっくり!
『エイラ』シリーズ、下調べを入念にしてある、とはあとがきに書いてあったけど
なによりエンターテイメントとして面白い本で、当然ながら空想の部分もたくさんあり、
なので神話体系に関しても話半分に聞いてましたが、

…意外と正解率高かった…!!

みんなもあの本を読むといいよ!第2部以降若干アダルトだけどな!

・作中に、キリスト教徒の常識に生きてる作者たちが大女神を信仰してた人々の気持ちになって
考えることは難しい、てな記述が出てきたんですが、
…キリスト教徒は大変だナ~(人事)
(多分、一般日本人なら、欧米人ほどの苦労はいらんのでは)

「新石器時代」部分
・女性の地位が低下したのは筋力を必要とする戦争や農作業の社会における重要度の増加の
ためかと思っていたら(大雑把にはそうかもしれないんですが)
初期の農業においては、農業を発見したのは女性だっため、女性が農作業における指導者的役割を
担っていた、みたいなことが書いてあったのでちょっとびっくりしました。
「女性は子育て中遠出出来なかったため、居住地にいて出来る仕事をすることになり
また、居住地の周辺の植物の長いスパンでの生育も発見しやすかった
→農業や機織を発見したのは実は女性である。」
あ、そうなんやー(単純)。

・この章では、旧石器時代は全てを内包していた大女神が、分化した様が説明されてて、
鳥女神(地上より上方の水担当)とか蛇女神(地上より下方の水担当)とか、
女神関連の動物とかについても書かれてるんですが
そこで言われて初めて気が付いきました。
グリフォンって、鳥+ライオン+蛇、という見事に女神の顕現ばかり
組み合わせた動物なんスね。そりゃ神聖なはずですヨ。

・ところで、当然ながら穀物の女神というのは農業が始まってから生まれたものなんだから、
ひょっとして、デメテルってアルテミスなんかより若干新しい女神なんでしょうか。
や、その前身の全ての母たる大女神の存在を考えるならやっぱり古い大女神なんだけど。
大地の女神って字面だけでデメテルを考えていた浅はかな自分をちょっと反省…

・先進地域のエジプト&メソポタミアから後進地域のヨーロッパへ文化が伝播、
というのが一般的な見解なのかと思ってたら、
東地中海(イタリアからトルコ南部あたりを含む)の古ヨーロッパ一体にも
高い文化があったらしい、てな事が書いてありました。
ほんとか?作者が欧米人なので、文化の源がアジア・アフリカにあることに
対する拒絶反応からくる捏造じゃあるまいな?などと穿ってしまった。

でも、ほんとうなら面白いですね。
(確かにヴィンチャ文明とか最近どっかで耳にしたぞー)
印欧語族の侵入以前に大女神崇拝を中心とする比較的平和的で
高い技術を持つ人々が栄えてたと想像するのはなかなか楽しい。
当然エトルリア文明はその流れを汲んでる筈だしね!

・しかし、この平和的で大女神中心の文化を、侵入してきた遊牧民の
クルガン人(印欧語族)が蹴散らしてしまったというのだから、
なんというか、

クルガン人め~~~!!

なにやらデジャヴを感じると思ったら、毎回インカ滅亡のことを考えるたびに
スペインに対して感じるソレでした(笑)。

・トルコのチャタル・ヒュユクの遺跡についてもたくさん書いてありました。
トルコという字面だけで幸せになれる自分はたいそうお手軽だと思います。
それだけでなく、女神の男性原理の表出などの部分は面白かったっスよ。


「クレタ」部分
クレタのミノア文明、時代的には青銅器にくるんですが、文化的には新石器時代の直径だ、
ということで、クレタ部分は新石器と青銅器の間においてあります。
・クレタの有名な明るい色彩の芸術について書かれている文を読むと、
つくづくクレタって豊かで、開放的だったんだなあと。
作者曰く「陽気で優雅で上品」
ホメロスの影響でクレタ=豊かな島というイメージが染み付いてたんですが
これまたあながち嘘ではなかったのね。
ところで、好戦的で、雷、風、嵐といったものを司る男神を信仰するセム語族&アーリア人ですが、
大女神の信仰が旧石器時代に共通するものだとしたら、なんでそれらの人々ののもとでは、
男神崇拝への移行がそんな早く起こったんだ?
遊牧?遊牧がキーワードなの?
あまり地味が豊かでない土地では大女神のありがたみが実感しにくい、ということなのでしょうか。
それとも豊かな土地よりよりいっそう男性の筋力が必要となってそのことが
社会のあり方を男性中心へと変え、それが神話にも影響したの??
戦争を正当化する必要に迫られるとこうなるのかしらん。

・ミノア文明(そして、その影響を受けつつ発展した印欧語族のミュケーナイ文明)
といえば、線文字A&Bですが、ようやく線文字Aだけ解読まだなの分かった。
印欧語族じゃないからかー(気付くの遅ッ!)

・女神を象った容器についても書いてありました。
つまり、中に入っている水なり食物なりは、女神の賜物なわけです、
女神が分けてくださった有り難い食物なんだから感謝していただこう、という真摯な気持ちがよく伝わる博物です。
ところで、日本の縄文土器の中にも女神を象ったものがあって、やはり
同じような意味合いを持つ、と吉田先生が仰ってたなあ。

・二人の女神と一人の男神の表現。
ペルセポネ―とデメテルの関係が分かりそうで分からないモヤモヤ感です。

・モヤモヤといえば、テセウス周辺もよく分からないままになってしまった…
クレタと言えば女神と牛なので、テセウス伝説に牛がしつこいほど何度も何度も出てくるのは分かる。
アリアドネが女神、もしくは人間だったら女神官だったというのも分かる
(ミノア文明、神官職は女性の職だもん)。
この伝説におけるアテナイ人のクレタへの敵意の裏に、
なんらかのクレタの優性という歴史的事実があったんじゃないか?
という推測も分かる。
テセウスという英雄が冒険する伝説と、クレタの別の伝説がややこしく絡まってるのも分かる。
なら当然、テセウスにアリアドネは得られないよね!
(ディオニュソス(=植物の化身?女神の息子)の方が大女神の系譜たる
アリアドネに近く、大女神と息子(=愛人)という形にも近い)
でも、具体的にどこがどうなんじゃい!と思うと途端に分からなく。モヤモヤ。

・ところで、ミノスという名前も、個人名だというこれまでの解釈の他に
「王朝名?」「エジプトのミンという神、もしくは初代王メネスと関係が?」
「ファラオ、的な王の代名詞?」などと色々言われてますが、それはさておき
イドメネウスの名前の中間部にも、この「ミノス」と同じ語幹が使用されてるそうです。
ほんとだー!気付かなかった―!
そうか、「イドメネウス」って由緒正しいクレタの名前だったんですね~

(長くなってしまった…「青銅器時代」以降は次)
by mi-narai | 2009-09-10 19:32 | 2009年9月の読書
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