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『歴史』上・中・下 『オデュッセウスの冒険』

歴史 (中) (岩波文庫 (33-405-2))

ヘロドトス / 岩波書店

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ヘロドトスの『歴史』、上巻、中巻読み終わり、順調に下巻に突入。
のんびり各地の地理やペルシャの歴史を俯瞰してる前半も面白かったけど
やはりギリシアとの小競り合いが始まったあたりからが特に良いです!
今、アテナイとスパルタに向かって進撃を開始したペルシア軍の内訳
(『イーリアス』でいうなら第2歌末尾の軍船のカタログ部分)と、
クセルクセスがヘレスポントスに橋をかけた、いわゆる「ポセイドン叔父さん緊縛事件」のあたり
(勝手に命名☆)。
続きが楽しみです。

では、以下、例によって読みながら心に浮かんだ雑多なことを箇条書きに。

・タウロイ人のアルテミスへの生け贄の話が出てきた。イピゲネイアに供える言うてるで。この生贄、もとはアルテミスに当たる現地の神の風習に対する記述じゃないかと思うけど、どこでアガメムノンの娘って話になったのかしら…(『イーリアス』にでてくるアガメムノンの娘の名前は別の名前だし)

・ネウロイ人は年に一度狼に変ず、の記述あり。北欧人狼伝説の先駆け?中世の狼男伝説よりはより原初のアニミズムに近い気がします。いいよなー、オオカミ!

・リビア辺りの伝承で、アテナはポセイドンと土地のトリトニス湖の子だというのがある。このアテナに関しては、十中八九土地の女神をアテナと同一視してるんでしょうが、アテナがポセイドンの娘、という字面が面白いのでメモ。

・中巻半ばにして漸く小アジア・イオニアがペルシアに反乱の兆し(ここまで長かったっス)。後のスパルタ王レオニダスが生まれた記述もさらっと出てきましたよ~

・ダミア、アウクセシアという聞きなれない(おそらく)豊穣の女神が出てきた

・女たちが怒りの余り留め金で男を惨殺→それまでアテナイ女性の着ていたドーリス式キトンがイオニア式に改められた、という由来話も出てきました。ここに載ってたのか、このエピソード。

・「背水の陣」がヘロドトスにも出てきます。この考え、洋の東西を問わないのだなあ!

・ヒスティアイオスも中々やるなぁ。(ダレイオスを欺いたミレトス人)

・イオニア連合海軍の指揮を取ることになったポカイア人のディオニュシオス、海軍を徹底的に訓練したらしく、そのあまりのしごきっぷりに、最後には兵士たちに丸無視されたらしいけど…

この軟弱ものがぁ熟練した海軍がどれほど強いか分からぬかッ!

後のアテナイ海軍はこの戦法を駆使して勝ったというのに!
艦の熟練が大事だというのは古代ギリシャもナポレオン戦争時のイギリス(笑)も一緒なのね。

・初戦のキオス軍。気の毒過ぎる…

・ちなみにディオニュシオスは、訓練をさぼったイオニア海軍が負けると出奔、フェニキアの商船を襲撃、拿捕、その足でシケリアに拠点作って、カルタゴ、エトルリア船を専門に襲う海賊になったのだそうな。スゲー!船のなんたるかをよく知る人だったのだなぁ!
(しかしこの流れ、ゲーム大航海時代の、拠点潰してからの敵勢力の趨勢とそっくりですよ。
いつもながらあのゲーム無駄にリアルだよなぁ…)

・クセルクセスの原形はクシャヤ・アルシャン、アルタクセルクセスの原形はアルタ・クシャトラらしい。いつも思うけど、ペルシアやインドの名前の音って素敵だなぁ…。

・中巻最後のマラトン部分。アテナイ、プラタイア連合軍とペルシア軍が、激しくぶつかり合ってます。そうか、アイスキュロスもこの戦いに参加したのか…!
なら、余計に作品に見え隠れする民主主義に対する誇らしさも分かる気がします!

・下巻冒頭のペルシア臣民の「ギリシャ人は言語がおなじであるのだから、内紛ばかりしてないで外交なりなんなり駆使して戦争を避けるべきだ。」の意見。もっともです


オデュッセウスの冒険

吉田 敦彦 / 青土社


吉田敦彦著『オデュッセウスの冒険』さらっと読了。
予測どおり、一日で読み終わりました。
オデュッセイアの各部分に対する吉田先生の解釈は、
他の先生の著書等で一度読んだことがあるようなものが多かったのですが、
それでも面白かったですよ~。
吉田先生はこれ、と思った解釈のみを述べる方針らしく、あまり他の解釈を説明されないので、
読んだ人が、それのみだと思っちゃいそうなのはどうかなと思ったのですが、
わたしは吉田先生好きなのでいいです、それで。
(ご本人が好みのタイプのおじいさんだったので。分かりやすいな、わたし)
それに、2、3目新しい解釈もあって、それは素直に「お?」と思いました。
例えば、ウーティス。オデュッセウスがポリュペーモスに尋ねられた時に名乗った偽名です。
これを説明するには、カリュプソーから始めねば。

カリュプソーは、名前の示すとおり「隠す女神」であり、
カリュプソーに囲われてる時期、オデュッセウスはまさに神隠し状態にあったわけですが、
それはつまり、オデュッセウスがオデュッセウスたる個性を剥ぎ取られた状態にあることだと、
吉田先生は言うわけです。
カリュプソーからの不老不死の誘惑は、不老不死と引き換えに、人間オデュッセウスとしての
彼固有の特徴をすべて無にするということなのです。
(そら否定するっての。あの濃ゆい個性あってのオデュッセウスですもんね。)
で、この、アイデンティティの危機は、オデュッセウスがウーティス(誰でもない)と名乗った時から
始まってたのではないか。と言われて、真偽はともかく、面白いなと思いました。
更に先生によると、ポリュペーモスはポセイドンの暴力的な側面の象徴で、
だからこそポセイドンは攻撃されてあれほど腹を立てたのであり、
それに知恵を使って打ち勝つということは、物語結末の、
知性の化身であるオデュッセウスの個性の快復と、勝利を予見していると。
この流れで行くと、ポリュペーモスに対する本名の名乗りは、必然だったのですね。

次、ガラっと話は変わってイタケ夫婦の寝室の話。
やつは何を考えたかしらんが新婚当時庭に生えてたオリーブの木を、
生やしたままそれを支柱にベッドを作り、周りを囲って寝室にしたんですが
(ほんと器用だよな。絶対家事全般完璧にこなせるんだぜ、この男)
それはつまり、王とイタケの大地のつながりを示し、その上で王と王妃が交合を行うことは、
豊穣を祈る呪術的な意味(聖婚てやつ?)があるのではないかとかなんとか

そのベッドの話がホメロスの創作でないかどうかとか、伝承がもとからあったとして
いつ頃成立したのかとか、いろいろ分からないので話半分に聞いてましたが、
そんなふうに色々裏読みすんの、ほんと面白かったです!
もっと小さい字でみっしり書いてくれたら良かったのに。
(安彦氏のイラストがあるとはいえ、コストパフォーマンス悪すぎる…)
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by mi-narai | 2009-05-31 10:57 | 2009年5月の読書
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