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コズミック・フロントNEXT,『毒味師イレーナ』『世襲格差社会』『とりかえばや物語』

100分de名著

今月はレヴィ=ストロース大先生やないけ!!
おまけに、解説が中沢新一…だと…!?

これはもう、見るしか!!

ということで、毎週視聴してます。
難しいです、先生。
でも、構造主義のハナシは面白い。


コズミック・フロントNEXT

銀河鉄道の夜の回
「日本文学ふいんき語り」を読んで以来、宮澤先輩はちゅうにびょうの人というイメージが
勝手に付いちゃってるんですが、
銀河鉄道の夜は嫌いじゃないです。
初読の小学生の時は、よう分からんイメージがいっぱいあったけどな。
今回、天の川を白鳥座から順に下って行ってるんだよとか、
石炭袋はこれだよとか、宮澤先輩の生きてた頃に発表された物理学の発見とか、
いろいろ背景を知って、面白かったです。
昔読んだ話の内容もぼんやり思い出して、ついでに見た映画(猫のやつ)も
思い出して、あの映画、音楽が好きだったんだよな~とか、懐かしくなりました。
未だにちょっと切ない思い出なのは、あれ、男の子同士の友情の話だからなのね。
ジョバンニとカンパネルラの会話が可愛かったなあ、という薄ぼんやりした記憶がある。


ツングースカ大爆発の回
隕石衝突で決まりだと思ってたので、諸説あることにびっくりしました。
結構最近の事件なのに、分からないものなんだなあ…
いつもの物理っぽい説明よりかは、ミステリー寄りで
ちょっと面白かった!


生命のいそうな惑星を探す回
以前は太陽と同程度の恒星を重点的に調べてたんだけど、
最近は、赤色矮性を回る惑星も探索の範囲に入れているらしい。
この、赤色矮性のハビタブルゾーンにある惑星の説明がすごいおもしろかったの!!
赤色矮性というのは太陽よりもっと小さい熱量の少ない恒星なので、寿命も長いし
そんなに熱くないから、液体が液体のままでいられる範囲も、太陽系よりもっと恒星に近いの。
で、近すぎるあまり、主星による潮汐ロックがかかって、
同じ面しか恒星に向けない惑星ができあがるのよ!!
(この潮汐ロックに関しては、月もかかってて、月の同じ面しか地球に向いてない)
一日中昼の表面と、黄昏ゾーンと、裏っかわのずっと夜のエリアとがあるの!!
季節どころか朝昼晩の概念もない世界ですよ。
植物層も固定されるんじゃないかしら。
こんなの、ファンタジーの世界の話だと思ってたのに、おもしろい!!!
そんな環境で生まれた生命って、どういう進化をたどるのかなあ!
考え始めるとわくわくが止まりません。


獄門島
金田一がぶっとんでた。
ディオ様降臨やったで…
でもまあ、戦場でこれでもかという理不尽な目にあって、本心から
なんで人は人を殺すねん!と思ってた青年に、あんな理由突きつけられたら
そらまあ、切れるよな、と妙に納得させられてしまいました。


そして誰もいなくなった
さすがに放送規定にひっかかるのか、インディアンが、兵隊さんになってました。
獄門島と同じカテゴリーや。
わたし、これの原作が大好きなんですけども、
もう、ミステリー好きなら知らぬものはないっちゅうくらいの有名な古典で、
もちろんオチも衆人が知ってる有名なアレなんですが、
(オリエント急行、アクロイド、ABCと並んで)
それでもあの一連のスピード感とサスペンスはさすがです。
こわいこわい。まだミステリー黎明期なので、ミステリーという箱の中で
こねくり回された、推理のための推理、みたいな局面が少なくて、
ほんとにありそうな話っぽくかかれてるので、よけいにハラハラします。
ふつう、ああいう場面で、いきなり事件の推理に乗り出したりしないよな、一般人は。
全3話らしいので、クローズドサークルのミステリーの死亡フラグがいくつ出てくるか
数えながら楽しみにみようと思います。部屋に一人でこもった奴は死ぬとかさ。




ここから本

ばけもの好む中将 四 踊る大菩薩寺院 (集英社文庫)

瀬川 貴次 / 集英社

スコア:


瀬川貴次著『ばけもの好む中将4』
お借りしたもの。
さらっと読めて意外と楽しくて、結構好きなシリーズなので貸してもらうのが待ち遠しい。
今回は、とうとう一番下の12の姉上が出てきました。
その下の姉上へのわがまま東宮の淡い片思いの行方が気になって仕方ありません!
今回は絡繰り仕掛けとどたばた喜劇が盛りだくさんで、
んなあほな!
と突っ込みつつ、楽しく読み終わりました。


毒見師イレーナ (ハーパーBOOKS)

マリア・V スナイダー / ハーパーコリンズ・ ジャパン

スコア:


マリア・V スナイダー著『毒味師イレーナ』
各所で話題だったので中古で買い求めてみた。
法律の厳格な軍事政権下、極悪人相手とはいえ人を殺してしまった主人公が、
死刑の代わりに最高指導者の毒味役に任命されるところからスタートです。
のっけから、逃げられないように猛毒盛られてるし(毎朝解毒剤を飲む必要がある)、
なんというか、すんごいジェットコースタードラマでした。
割合おもしろかったですよ。未だに欧米系の魔法の表現に慣れませんが。
欧米の人の魔法の概念て、超能力とあんまり変わらないよね。
どうしてもわたしは陰陽道的な学問体系、みたいなのを想像しがちなので、翻訳物で
魔法が出てくると、使い方がアバウトだよなあ、と思ってしまいます。
それはさておき、じわじわ人間関係の輪を広げ、信頼も勝ち得、なんとか最初のどん底からは
這い上がった主人公が次に魔法の修行をしに故郷に赴くところで1巻は終わり。
原価で買うのはもったいないけど、中古で続きがでてたら買おうかなあ。


世襲格差社会 - 機会は不平等なのか (中公新書)

橘木 俊詔 / 中央公論新社

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橘木俊詔著『世襲格差社会』
いや、最近の格差の開きについてはいろいろ思うところがあるので!
新書で出ていたこの本を買い求めてみました。
格差というものを、世襲というポイントに絞って論じたまじめな一冊。
著者の言うには世襲も二分化してて、
まったく金にはならないけど伝統技術を守るために世襲をするパターン(無形文化財とかそういうの)と、
単純に親の地盤を引き継いだら儲かることがわかっているので跡を継ぐパターン(政治家とか医者とかな)
があるそうです。
賃金よりも、資産の方が増える率は高くて、しかも世襲で有利な人間のところには
どんどん富が蓄積されるんだから

まったく世の中不公平だぜ!!!

と激しく憤った次第。相続税で全部ぶんどってまえばええねん
後、政治家と医者は親の開業してた地域とは別地域から出馬とか開業せなあかんて
法律で定めたらええねん。
教育格差もそうですが、格差が世代間で固定されるのは許し難い!ふんとにもう!!


裏切りの月に抱かれて (ハヤカワ文庫FT)

パトリシア ブリッグズ / 早川書房

スコア:


パトリシア・ブリッグズ著『裏切りの月に抱かれて』
ずーっと前に100円くらいで買った早川ファンタジー。
なんとなく気が向いて読んでみました。
以外とおもしろかった。
ちょっと前、アメリカで狼男とか吸血鬼とか、そういう人外の妖怪と人間とのロマンスが
はやった時期があったそうなんだけど、まさにその時期にかかれた一冊で、
主人公は動物に変化する能力を持った女の人。
噛まれて感染して変化してしまう狼男や吸血鬼とは一線を画してて、
ネイティブ・アメリカン系の生まれつきそういう家系の人なの。
そんな彼女が、人狼社会のあれこれに巻きこまれ、故郷の初恋の人と、今すんでる地域の
アルファ狼の間で揺れちゃったりなんかして、ロマンス要素もちゃんとあり、
なんか、パラノーマル・ロマンスとしては、割合おもしろかったのです。
アメリカでは続きも結構出てるみたいなんだけど、日本では翻訳はされてません。
3巻で3角関係にも決着がつくみたいなのに、昨今の出版事情のシビアさよ。
(原書を読むしかないのか?)
ちなみにわたしは初恋の人サミュエルより、今の隣人のアルファ狼アダム推しです。


とりかえばや物語 (文春文庫 た 3-51)

田辺 聖子 / 文藝春秋

スコア:


田辺聖子著『とりかえばや物語』
前に『おちくぼ物語』の方を貸してもらったのですが、その流れでこの本も貸してもらいました。
これの知識といえば山内直子の『ざ・ちぇんじ』くらいですよ。
原作を読んで、さすがに「ちぇんじ」のほうは、少女マンガだけにだいぶマイルドに
してあったんだなあと改めて実感。
原作の方は、たぶん大幅に田辺聖子の手が入ってやはり抑えめにはなってると思うけど
もうちょっとえげつないというか。
宰相の息子もそうだけど(この物語では夏雲という名前を与えられていました)、
男に戻った主人公の兄も、ほんま、

どないしょうもないな!!

と男性陣にいらいらいたしました。その中でさすがに不敬に当たると思ったんか
御門に関しては、理想の男性として描かれていて、この理想の男性像が今でいうところの少女マンガの王子様的で
今も昔も女子の萌えポインツは一緒ね、とほのぼのいたしました。
主人公の、男として身を立てた女の子(春風という仮名が与えられてました)は、終始
男前で、理性的で潔く、気持ちよかったよ。
後、『おちくぼ』の方の解説は美内すずえ先生でしたが、この『とりかえばや』は
里中満智子先生だった。

まちこーー!!!!


昔ばなしの謎 あの世とこの世の神話学 (角川ソフィア文庫)

古川 のり子 / KADOKAWA

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古川 のり子著『昔ばなしの謎 あの世とこの世の神話』
角川らしく、さらっと読みやすい本でした。
昔話に出てくる登場人物を、さらに昔の文献に探し、掘り下げ、そういった登場人物が
かつての日本人にとってどういった印象と意味を持つものなのか、などを
桃太郎や浦島太郎、かちかち山といった有名昔話ひとつひとつについて考えていく感じ。
おもしろかったですよ。
桃太郎の連れてる犬、サル、キジ、がすべて境界をまたいだり、越えたりする動物だったりとか。
(鳥がそうであるのはギリシャ神話もなんだけど)
それから脱線して、日本における鳥の印象の捉えられ方とか。
ふつうは猛禽類が最強なんだけど、日本では小さいスズメ目の鳥がそれより強いことになってて、
このあたり、干支の最初になぜネズミがくるかというエピソードとも重なってて
ちょっとおもしろかった。
後、底辺に流れる世界観は一緒で、登場人物の性別、年齢、などによって結末が分かれる、という指摘とか。
異類婚のあたりは、前にも別の本で読んだことがあったのでさほど目新しさはなかったですが、
全体的に読みやすかったです(この一文に戻ってくる)。


ヒトはいかにして生まれたか 遺伝と進化の人類学 (講談社学術文庫)

尾本 恵市 / 講談社

スコア:


尾本恵市著『ヒトはいかにして生まれたか 遺伝と進化の人類学』
最近、ヒトの進化に関する本を読みあさっていたので、まだ知識を覚えているうちに、
と思ってこれも読んでおいた。
少し古くて、1995年の講演内容を文字化したもの。
今回は、日本の人類学に関する流れとかが、著者の体験にかぶせて説明してあって、
当時の雰囲気が嗅げたのは目新しかったです。
やはり、分子遺伝学の発展は、この分野を大きく変えたのだなあ!!
人類学の大まかな流れは、だいたいの本で一致してるんですが、
諸々のまだ解明されていない問題に対するその解釈はまちまちで、
この著者についていえば、人類に毛のない理由とか、独特でおもしろかったです。
後、ネオテニーについて、わたし、いまいちわかってなかったんですが、
ようやくすっきり理解できた気がします。


雑誌『EPTA』
超絶かわゆらしい上司にまたもやただでもらったので。
今回は種特集でした。
いいよね、植物は。いやされるよね。
種だけじゃなくて、和綿の記事なんかもあったんですが、
日本産のコットンって生産量ほとんど0%に近いんですって!!
マジか!
最近コットン100%の衣類の手触りの良さに目覚めたところなのでそれは残念だと思った次第。
日本産の綿の方がしっとりしてると聞いてはよけいに、ますます。
地域に根ざした野菜なんかも、育てやすい商業用苗に押されてどんどん失われて
いってるみたいだし、なんか、知らんとこで日本の植物層が消えてる、と思うと
なんか、悲しくなりました。自家農園すべきか!?
# by mi-narai | 2016-12-08 10:45 | 2016年下半期の読書

『父という余分なもの』『ヒト 異端のサルの一億年』『精霊の守り人』『アーサー王と聖杯の物語』

父という余分なもの: サルに探る文明の起源 (新潮文庫)

山極 寿一 / 新潮社

スコア:


山極寿一著『父という余分なもの』
あの有名な京大の霊長類研究所の先生で、つい数年前に京大の学長に就任した著者が書いた
霊長類の研究から家族構成における父親というのもの役割ひいては
動物学的な比較、社会性の発達段階の観察等を書いた本。
その本が古本屋で200円で売られてて、しかも解説がかの鷲田清一先生と来れば
もうこれは買うしか!
そういえば、この先生、京大学長に推挙されちゃったとき
学生たちがこぞって反対したそうですね。曰く
「先生が研究できなくなる!」
愛されてんなぁ…。

それはさておき内容です。
長年ゴリラ研究にいそしんできた著者がその集大成として社会制度の萌芽としての
父について考察した、大真面目な一冊でした。
古い神話とか見てると、大体古代人は女系なのかなと思ってたんですが、
ところがどっこい、類人猿は父系社会なんですって。
ほ乳類はそもそも雌が集団で暮らして、雄がその集団を離れてよそへ行くパターンが
多いのだけれど、類人猿とその他一部だけは、雌が生まれたグループを離れて余所へ移っていくらしい。
なので、まずゴリラから種として分かれ、次にチンパンジーとボノボに枝分かれした
人類も、初期は父系のグループを作ってたんじゃないかという類推なんだけど

意外!

でした、これが。
もっと社会的な要因で女性の移動が始まったのかと思ってたけど
そんな昔からの風習だったんかいな。
いや、まだ推測の域を出ないので分かりませんが。
後、主食と群の構成比率とか、社会性などを比較する項目も面白かったです。
雌が発情を隠すか隠さないかとか。
以前読んだジャレド・ダイヤモンドの本を思い出しました。


鍋奉行犯科帳 お奉行様のフカ退治 鍋奉行犯科帳シリーズ (集英社文庫)

田中啓文 / 集英社

スコア:


田中啓文著『お奉行様のフカ退治』
言わずとしれた鍋奉行シリーズの一冊。
これまたさらっと1冊読んでしまいました。
相変わらず、安定していて、お約束が利いていて読みやすい。
一番へーと思ったのは、江戸時代くらいには、
きゅうりって黄色く熟してから食べていたらしいと言うことです。
あれ、食えるんや!!
昔はもっと苦かったみたいだけど、品種改良して苦くないのを作り出したんだって!
へー!


ダブル・ジョーカー (角川文庫)

柳 広司 / 角川書店(角川グループパブリッシング)

スコア:


柳広司著『ダブルジョーカー』
お借りした本。
これまたさらっと読める薄い本です。
でも薄くて正解かも。
あんまりスパイの、油断できない張りつめた世界の話ばかり読んでいると息が詰まってしまいそう。
でも、表題作の、陸軍主導の新たな諜報機関と我らがD機関の対決は
D機関が相手をさらりとかわすのが気持ちよかった。


おちくぼ物語 (文春文庫)

田辺 聖子 / 文藝春秋

スコア:


田辺聖子著『おちくぼ物語』
これまたお借りした本。
古典『落窪物語』の現代語翻案で、物語の雰囲気や登場人物、大筋はそのままに、
現代人向けにアレンジして欠かれています。
有名な物語だけど、一応ざっと説明しておくと、書き手は不明で、
落窪の君というひどいあだ名を付けられている女主人公が、継母にいじめ倒されるけど
機転の利く侍女のおかげもあって男前の若君に見初められ成り上がって継母を見返すという話。
面白かった!
もともと『落窪物語』って大衆小説で、当時から文学界の偉い人には蔑まれていたらしいけど
確かに文学的高尚さはないけど大衆受けしそうなこれでもかという展開があって
ぐいぐい読めてしまいました。いや、これは田辺聖子さんの力量なのかな。
今で言うところの少女マンガみたいなあらすじですよ!
いいじゃないですか、サブカルチャーっぽくて。
解説が美内すずえ先生だったのがまたびっくり。


パラダイス・ロスト (角川文庫)

柳 広司 / 角川書店

スコア:


柳広司著『パラダイス・ロスト』
これまたお借りした本。
いや、借りたやつから読まないといけないなと思ってさ。
ダブル・ジョーカーの次の巻ですが、特には続いてないです。
相変わらずのスパイ戦。
今回はアニメで見たやつが多かったので、さらさらっと読みました。
もうそろそろおなかいっぱいです。


精霊の守り人 (偕成社ワンダーランド)

上橋 菜穂子 / 偕成社

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上橋菜穂子著『精霊の守り人』
こいつ、また時流に乗りやがって、と思うでしょう。
まあ、そうなんですけど、本を買ったのはもう20年も前なんですよ。
もともと児童文学が好きで、この本も出てすぐくらいに買って、
でも当時は海外の面白い児童文学を山ほど読んでたし、自分も若かったし、
「面白いけど、ふつうくらいかな」と思ってたのですよ。
4冊目の『虚空の旅人』まで買って、次巻が上下巻だったので躊躇してるうちに
月日は流れ、なんか知らんけどブームになって、文庫化(!)して
ドラマ化までされちゃって、
ドラマ見た父母が「原作貸してくれ」と私の蔵書を持って行き、続きを文庫で揃えるに
至って、これは、最初に買った私だけが読んでないなんてことがあってはならん、と
遅ればせながら読み始めた所存。
どうせ読むなら1巻目から再読してみた。
この1巻目は、読んでから随分経ったので薄ぼんやりどろっとした異世界のイメージと
女性と少年の逃避行、みたいなイメージしかなかったんですが、
ドラマを見てあらすじをおさらいしていたので、たいへん分かりやすく読めました。
うん、面白かったよ。
自分も年をとったので、ちびっこと別れるときのつらさとか身につまされちゃいました。
オーストラリアの民俗などを研究しておられた著者のことなので、言われてみれば神話感はそんな感じ。
昔、オーストラリアが舞台の現地神話に根ざしたファンタジーを読んだことがあったけど、
話の筋はともかくその豊かな世界観には刮目しましたもの。それを思い出しました。

闇の守り人 (偕成社ワンダーランド)

上橋 菜穂子 / 偕成社

スコア:


上橋菜穂子著『闇の守り人』
続けて読破。
主人公バルサが故郷カンバル王国へ帰る話。
1巻目の温暖湿潤地帯かつミクロネシアっぽい世界と打って変わって
からっと乾いた草原と山岳地帯の話だったので、毛色が変わってて
なんかすごい楽しく読み進みました。
部族間の陰謀に巻き込まれたり、やはりちびっこに肩入れしたり、今回も主人公のバルサは
大車輪の活躍ですよ。
人間に使われてる小さい牧童たちが、じつは大地の民であるという設定は、
サトクリフの『太陽の戦士』に出てくる先住民たちを連想しました。
2巻目なので主人公やその他の登場人物たちにも愛着がわいてきて、読みやすい。
それにしても、バルサさんが味方に付いたときの安定感がハンパないですよ。
彼女がいれば安心だ!って思っちゃうもんな。

夢の守り人 (偕成社ワンダーランド)

上橋 菜穂子 / 偕成社

スコア:


上橋菜穂子著『夢の守り人』さらに読破。
バルサの幼なじみのタンダが夢に捕まっちゃう話。
あー、わかるわー、29歳って微妙なお年頃やんなぁ(そこかー!)
若干トロガイ師の言い回しが大仰すぎるなとは思いましたが、
今回は諸国放浪譚ってよりは、純粋にTHEファンタジーって感じの筋書きで
これはこれで面白かったです。
『花冠の竜の国』で出てきそうなネタだった(笑
でもネタで終わらせずに人生のほろ苦さを混ぜてくるあたり、さすがだと思いました。

虚空の旅人 (偕成社ワンダーランド)

上橋 菜穂子 / 偕成社

スコア:


上橋菜穂子著『虚空の旅人』
わたしが自分で買ったのはここまで。
今度は南の島国サンガル王国にチャグム皇子が特使として出向く話。
諸国漫遊譚再び。いや、この世界を旅する系の話は大好物なので超楽しいです。
言葉が東南アジアっぽいのもまた楽しい。
物語の進み方がなんか見えてきましたよ。諸国漫遊譚にその国の陰謀を絡めて
主人公が巻き込まれる系ですね。それにもう一つの世界がらみのサイドストーリーがさらに絡んでくると。
今回は商売っけの強い国の話でしたが、以外に直情バカのタルサン王子が好感触。
可愛かったです。
チャグムはお着きのシュガが霞むほどご立派でいらしてまあ。成長したわね。
誰かチャグムを左側に据えて右側シュガとかタルサンで薄い本書いたらええねん。
是非買うのに。(やめなさいよ)

神の守り人〈上〉来訪編 (新潮文庫)

上橋 菜穂子 / 新潮社

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神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)

上橋 菜穂子 / 新潮社

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上橋菜穂子著『神の守り人(上)(下)』読了。
ここまで来たら、一気に読みますよ!
またもバルサがちびっ子の護衛をして大変な目に遭う話。
今回はロタ王国のごたごたに巻き込まれてます。
バルサもタンダも毎回必ず重傷を負うので慣れたとはいえいつも痛そう…。
今回は、他の巻にもまして血なまぐさく、あいたたたと思うシーンも多かったけど、
やはり面白かったですよ。
ちょっと状況と設定説明が多かったですが。
しかしまあ、どこの国も大変だな。そんなもんか。

蒼路の旅人 (新潮文庫)

上橋 菜穂子 / 新潮社

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上橋菜穂子著『蒼路の旅人』
わたし、わりとチャグムの話が好きみたい。
なので、これも期待して読んだのですが、諸国漫遊譚っぽい趣はあるけど
ずーっと捕まったままで、敵の強大さを思い知らされただけで雰囲気は重苦しかった…。
作者はタルシュ帝国の勢いばかり書いてるけど侵略で大きくなりすぎた国は続かんぞ。
中国も、ローマもオスマン帝国もな…。

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)

上橋 菜穂子 / 新潮社

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上橋菜穂子著『天と地の守り人(上)』
えっらいとこで終わった前巻の続きです。
貸してくれた母がこの天と地が一番好きといっていたので。
母の性格から類推するにたぶんチャグムが活躍してすっきり大団円で終わるのだろうと勝手に予想してます。
それなら私も楽しみ♪
しかし、まだ上中下とあるうちの上巻なので追い込まれて崖っぷちな状況が続いてます。
後、守り人シリーズが好きな人は、絶対ジル・オールが好きだと思うな。
後(2)、著者がサトクリフ好きって書いてあるじゃん!
そうだろう!!
世の中の人はもっとサトクリフを読むべき。

天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)

上橋 菜穂子 / 新潮社

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天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)

上橋 菜穂子 / 新潮社

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上橋菜穂子著『天と地の守り人(中)(下)』
中と下はほぼ一気読みしたので。
中でようやくバルサがチャグムに追いついて、またもチャグムを守って用心棒なのでちょっと楽しかった。
下巻は、まあ、想定内というか。
チャグムがちゃんと間に合って、良かったです。
タンダは気の毒だったなぁ…。最前線の下っ端なんてあんなもんだよなあ。


アーサー王と聖杯の物語―サトクリフ・オリジナル〈2〉 (サトクリフ・オリジナル (2))

ローズマリ サトクリフ / 原書房

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ローズマリ・サトクリフ著『アーサー王と聖杯の物語』
買いだめておいたものをここで。
サトクリフは再話よりオリジナルの方が断然おもしろいのですが、残念なことにこれは再話の方でした。
でも、さすが作家だけあって、無味乾燥な中世の騎士物語がすっきりとした筋で大変よみやすくまとめられています。
聖杯の話が知りたい人にはお勧めの一冊。
アーサー王物語関連の話はむかーしざらっと読んだのですが、
まあ大体忘れていたので新鮮な気持ちで読めました。
聖杯は結局ランスロットの息子ガラハドが手に入れるというのは覚えていましたが、
ガラハドがあんな鼻につく若造だというのは忘れてました。
後、ランスロットが可哀想だった。
中世の話なのでキリスト教色が濃くてかなわん。


アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉 (サトクリフ・オリジナル (3))

ローズマリ サトクリフ / 原書房

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続けてローズマリ・サトクリフ『アーサー王最後の戦い』
アーサー王の物語は、最初の魔術師マーリンの助けでアーサーが王になって
彼の周りに円卓の騎士が集まるところがピークな気がする。
聖杯探求で騎士たちはバラバラになり、ある者は二度と戻らず、
この最後の戦いでは、宮廷が崩壊してしまいます。
この話も、むかーしざらっと他の本であらすじだけ読んだ気がするのですが
その時は敵方のモルドレッドのせいで争いが勃発した、位にしか思ってなかったのですが、
このサトクリフの再話を読んですっきりどういう流れかが分かりました。
やっぱり悪者はモルドレッドだった。
そして、やっぱりランスロットとアーサーは可哀想だった。
モルガン・ル・フェイはほとんど出てきませんでした。
マーリンもサンザシの下で眠りについた後なのでぜんぜん出番がなく、それは残念。
ケルトのフィンと黄金の騎士団の話の最後を読んだときも思ったけど、崩壊する話は悲しいなあ。
色合いがにているのは、アーサー王伝説の方もケルトの伝承を下に敷いているからでしょうか。


ヒト―異端のサルの1億年 (中公新書)

島 泰三 / 中央公論新社

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島 泰三著『ヒト 異端のサルの一億年』
半世紀ほどサル研究に携わった著者が、人間もサルの一種として客観的に見ながら
霊長類の進化をたどった一冊。
それぞれオランウータンの観察時に東南アジアにいったときのこととか、
ゴリラやチンパンジーを追ってアフリカに赴いたときのこととか、
若干エッセイ風に書いてあって、それがまた作者の驚きや感動が伝わってきて
思いの外心揺さぶられました。
意外におもしろいんだ、この本!
まだ途中で、オランウータン、ゴリラ、チンパンジーと類人猿を見てきて、
次にアウストラロピテクスなので、続きを楽しみに読もうと思います。

読了。
アウストラロピテクス類がハイエナみたいに骨食ってたという説にはびっくりした。
そうなんや!
ホモ・エレクトゥスやネアンデルタールが筋肉ムキムキだったのは前から知ってましたが。
この人たち、肉食獣とて食っちゃう、スーパー肉食だったみたいですよ!
それに比べて人類は華奢で、雑食で、ネアンデルタールとかがいたら、
そこを迂回して進むような、肉体的には弱い種だったみたい。
肉食だったネアンデルタールたちの数が少なかったおかげで最終的に勝ったようなものですよ。
そういえば、アフリカのホモ・サピエンスはともかく、ネアンデルタールの居住地だったヨーロッパ南部から中東にかかるあたりを通過したホモ・サピエンスには、
もれなくネアンデルタールの遺伝子が入ってるみたいですよ。
しかもネアンデルタール×ホモ・サピエンスですよ。
欧米人の顔かたちはそのせいでは、とか邪推しちゃったよすまん。

最後の章で、最近の遺伝子研究からわかる日本人の近縁についても書かれてましたが、
中国南部の少数民族とか、北東アジアの少数民族とか、南米の少数民族とかみたい。
お隣さんの中国人とか韓国人とは割と遺伝的には遠いみたいですよ。
あれやんね、辺境故に古い血が残った系の。方言周辺論と似たような現象よね。
ちょっとおもしろいなと思いました。
# by mi-narai | 2016-09-25 22:42 | 2016年下半期の読書

『人イヌにあう』 『二重人格探偵エリザ』 『「魔」の世界』

今年も始まりました。夏休み子供科学電話相談
しょっぱなが植物の田中先生2連チャンだったので気合い入れて聞いて、
その後ついったのまとめも見てたんですが、
田中先生の回答への数々のコメントの中にふたばさんを見つけて目を丸くしました。
同志…!(や、あの回答にだけ独立してコメントなさったのかもしれませんが)
ともあれ、リアルに田中先生の「じゃ、これ覚えとこか」「言うてみて」
矢島神の昆虫ゼリーdisを聞けて満足です。
宇宙の質問もすごーく楽しかった!!
どうして宇宙は暗いのか。深い質問やで!!


コズミック・フロントNEXT

荒ぶる木星回
「荒ぶる」ってネーミングにちょっと笑いました。
それにしても、最近分かってきた太陽系の成り立ちはなかなかすごい。
木星の暴れん坊っぷりはけた外れですよ。
ゼウスの名を付けた古代の人は先見の明があった!

宇宙ステーション回
当時のソ連の突貫工事っぷりにガクブルしました。
某お隣の赤い国と似ている…!
でも、それでも現場の科学者や技術者はものすごい頑張ってたんだよなあ。



ここから本

人イヌにあう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

コンラート ローレンツ / 早川書房

スコア:


コンラート・ローレンツ著『人イヌにあう』
人面犬の話じゃないですよ。黎明期に偉業を達成し、ノーベル賞まで受賞した
動物行動学界の重鎮が、自分ちで飼ってた犬や猫についてつれづれなるままに書いた心温まる本。
いや、もう、ほんと、行間から著者の愛がダダ漏れていて、
読み終わったら速攻なんか動物を一匹お家に迎え入れたくなること請け合い!
最近猫も良いなあと思ってたけど、本を読むとやっぱり犬も良いなあ…。
(どっちもすてきなんだもん!)
著者はその道の権威なので、飼ってる人がすぐ言いがちな
「この子、わたしの言葉が分かってる」とか
「悲しいのね~」とか
妙な擬人化は一切せず、ちゃんと動物の習性と本能とその行動を考慮に入れて
諸々の反応を判断していらっしゃるんですが、その上で、やっぱり自分の犬猫達を
深く愛してるんですよ。
時々「わたしのティトー」「わたしの雌犬スタシ」とか、名前に一人称所有詞付けるのが
きゅんときます。
「わたしの~」って何気ないけど使いどころを間違えなければ殺し文句だよなあ。
ヘクトールに「わたしのトロイア」発言されたらキュン死する(黙れ)。
もしも将来犬を飼うなら、飼う前に再度熟読しよう、と思った本でした。


二重人格探偵エリザ 嗤う双面神(双面神:ヤヌス) (ハーパーBOOKS)

ヴィオラ カー / ハーパーコリンズ・ ジャパン

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ヴィオラ カー 著『二重人格探偵エリザ』
お借りした本。
「ジキル博士とハイド氏」に娘がいたら、という設定のミステリー。
という見出しだけ見て読み始めたので、ヴィクトリア朝が舞台のゴシックミステリーなのかな、
くらいに思ってたのですが、ゴシックミステリーだけじゃなく、スチームパンクという
SF要素あり、オオカミ人間、錬金術といったオカルト要素あり、いろいろごたまぜで、
ミステリー要素もサスペンス調で、とにかく盛りだくさんじゃった。
もう、はらぁ一杯だ…
(※こんなとこで使う台詞じゃありませんすみません)
いや、でも、楽しく読みましたよ。
知的で地味なジキル博士の娘エリザは、
内っ側にリジーという大胆で奔放で気の強い山猫みたいな人格を抱え持ってて、
普段はスコットランドヤードの監察医として働いてるんだけど、
いけすかんおっさん刑事からは女だって理由で嫌がらせされるし、
ちょっと前に捕まえた切り裂きジャックは監獄の中から思わせぶりなメッセージ送ってくるし、
体の部位がぶつ切りになったホラーテイストな殺人が次々起こるし、
現代の魔女狩りともいえる、異端科学審問の最先端、王立科学院から派遣された男に目を付けられるし、
リジーはその男が大好きだし、
謎の後見人は気にかかるし、
なんかもういろいろ大変です。
大体こういうスプラッタっぽい殺人事件を扱うミステリーって、最後は探偵役が
最後の犠牲者になりかけて、間一髪助かるって筋が多いんですが、
…まあ、大体そんな感じ。
続編もあるそうなんですが、
困った男からもってもての主人公がいったい誰に惚れるのかが一番気になるところです。


化け芭蕉 縁切り塚の怪 (角川文庫)

瀬川 貴次 / KADOKAWA/角川書店

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瀬川貴次著『化け芭蕉』
これもお借りした本。
上のエリザが翻訳物の常として、一ページにぎっしり文字がつまってたなかなか読み進まなかったのに対し、
あっという間に読み終わりました!
「化け物好む中将」とは違って今回は推理ものじゃなかったけど、結構面白かったですよ。
若き芭蕉と、若い日の弟子たちが和気藹々としてて微笑ましかった。
作中ナチュラルに主人公がホモ疑惑掛けられてて笑いましたが(笑)


目白台サイドキック 五色の事件簿 (角川文庫)

太田 忠司 / KADOKAWA/角川書店

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太田忠著『目白台サイドキック 五色の事件簿』
更にお借りした本。
『北野坂』の方と設定やらなにやらけっこうかぶるのですが、
こっちの方が堅実な感じがするのはなぜなのでしょう。
いや、北野坂の方はかっこつけのにおいがしてうんざりするからかな。
語り役の若手刑事さんがものすごいいい子で可愛いし。
今回は幽霊関連の短編を連ねつつ、根底にじわじわ大きな謎が浮かび上がって
来る趣向で、けっこう次が楽しみな終わり方でした。


世界を、こんなふうに見てごらん (集英社文庫)

日高 敏隆 / 集英社

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日高敏隆著『世界を、こんなふうにみてごらん』
コンラート・ローレンツ関連で読みました。
「ソロモンの指輪」の訳の人じゃないかな。
青少年に向けたメッセージを基底にしたエッセイ、なので大変読みやすいのですが、
その簡単な文章の中に日本に新しい学問を打ち立てることの困難や
作者のだいぶ変わった人柄や
いろいろがかいま見えてなかなか面白かったです。
作者は独自に、
「もっともらしく唱えられてる科学なんてのも
暫定的に今こんな感じで考えられてるってだけの途中経過であって
絶対的な答えではない、まあ世の中大体そんなもん、
お前等、寄って立って安心してんなよ!」
というような境地に達しているのですが、
割と最近同じ事言ってる人見た、と思ったらサルトルだった。

けど「イリュージョン」という字面は、真面目に使ってあっても
ちょっと笑ってしまいますね。手品師が思い浮かんじゃって。


「魔」の世界 (講談社学術文庫)

那谷 敏郎 / 講談社

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那谷敏郎著『「魔」の世界』
古今東西の世界の妖怪、怪物、お化けについて広く、結構つっこんで書いてある本。
面白いよ!
インドとかアジアとか、普段あんまり注目しないあたりが書かれてて
読みながらにやにやしました。
特にアラビア圏の魔についてけっこう詳しく書いてあったのは嬉しかった!
あんまりないんですよね。そういう本。
ギリシャ神話の魔については、通り一遍でしたが。
「世界の妖怪辞典」とか、そういう本よりは、
項目は少ないけどもう少し系統だてて深く掘り下げてある印象。
古本屋で衝動買いしたのですが、割といい買い物だったと自画自賛しました。


ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

柳 広司 / KADOKAWA/角川書店

スコア:


『ジョーカー・ゲーム』
お茶友に勧められてアニメを見て、割と面白かったと感想をいうと、原作本を貸してくれました。
アニメで一度見た話なので、構えずにさらっと読めましたよ。
スパイの話はもともと好きなので楽しかったですが、
D機関の人間は鼻持ちならん。
軍人もいろいろアレですが。
# by mi-narai | 2016-08-01 00:40 | 2016年下半期の読書

『人形遣い』 『政令指定都市』 『ソロモンの指輪』

人形遣い (事件分析官アーベル&クリスト) (創元推理文庫)

ライナー・レフラー / 東京創元社

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ライナー・レフラー著『人形遣い』
ドイツ発ミステリー。
ケルンで起こる血なまぐさい連続殺人を解決するため、
事件分析官(アメリカで言うところのプロファイラー)の主人公アーベルが呼ばれ、
その助手として若くて気の強い美人刑事ハンナが付けられたところから
物語はスタート。
最初はいがみ合ってた二人が事件を追うにつれ、徐々に互いに信頼を育てていくのが
王道とはいえ読み応えがありました。
殺人事件の方は、いかにもドイツらしく、臓物が派手に飛び散る系のアレでソレ
なので、グロいのが苦手な人は気をつけて。
なんで大陸の最近のミステリーはスプラッタっぽいのが多いのか…。
シリアルキラーで、幼少時の性的虐待ネタはもうええねん!!
と叫びたくなるような、どっかで見たような道具立てではあったのですが、
話のテンポがいいのと、主人公たちがなかなか魅力的だったのとで
最後まで飽きずにハラハラしながら読みすすめることが出来ました。
アイディアはふつうだけど、小説の構成とかバランスとか
人物設計はすごい堅実なイメージ。
後、登場人物同士の軽口が、イギリス小説ほどひねってはいず、
アメリカ小説ほど軽くも明るくもなく、
微妙にすべってるというか、妙に真面目っぽいのが
日本人と相通ずるな、などと変なところで感心してしまいました。


政令指定都市 - 100万都市から都構想へ (中公新書)

北村 亘 / 中央公論新社

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北村亘著『政令指定都市』
そのタイトル通り、地方都市行政の内、政令指定都市に絞って書いてある著書。
その成り立ちから、行政形態、市長の一日、この制度は今後どういう変化を考え得るか、
などをひと通りさらえてある感触です。
まずは大まかに都市政策というものの意義について。
そもそも、牽引役を期待して、国は大都市に権限を付与するらしいですね。
その地域の経済の活性化の起爆剤的な。
けど薄く広くやりすぎると、財政が続かんし効果も薄い。
なので、これ、という大都市にのみ、集中投資するのが良いとされているようです。
もともと、もっと権限を付与した「特別市」、というものに、
首都として東京都に組み込まれた東京市を抜いた、5大都市を当てはめようとしてたのが
周辺自治体の反発とか政治的駆け引きとか与党の都合とかあって、
玉虫色の「政令指定都市」制度というのに落ち着いたそう。
それが制定されたのが戦後まもなくだったから、
ひどい爆撃を受けた神戸市の人口が激減してて、
それで本来なら100万以上にするところだった人口要件が
50万以上になっちゃったらしい。
これが後々、尾を引くんです。
その後、経済成長と共に、政令指定都市になることが大きな都市のステータスみたいに思われて
なんだかんだで他の市が目指すようになって、現在その数20市。
もともとの狙いからだいぶはずれてます。
これだけ増えると、それぞれの都市間の特徴や実力の差がバラバラで、
全部を同じ政令指定都市という制度に当てはめちゃうのがいいのか悪いのか。
ちなみに、各都市の状況などをいろいろな視点から眺めて考えると、
今のところもっとも大きな政令指定都市、第一人者を自認してる横浜市って、
実のところ単なる大きな衛星都市にすぎないらしいですよ。
大都市制度を適用して効果が期待される市としては、
福岡、名古屋、大阪がその要件に当てはまるらしく、
特に大阪は大都市の中の大都市なのだそう。まだまだ自信持ってください大阪さん。
なので、横浜には、大都市としての制度ではなく、
大きな衛星都市としての別の補助を掛けた方がいいみたい。

いきなり市長の話になりますが、市長ってお忙しいんですね。
作中に、比較的情報が公開されてる広島市と大阪市の市長の一月の仕事回数、
みたいな円グラフがあったんだけど、どっちもひたすら大変そう。
でも当時の大阪市長(あの人でした)は鬼のように仕事こなしてちゃんと休暇も確保してて
すごいな、と思いました。

都市の財源の話。
一般平均としては政令指定市は固定資産税がもっとも大きい割合を占めてるんだけど、
特に京都と大阪は特殊らしい。
京都は神社仏閣と教育機関(大学)が多すぎて、固定資産税がそんなにとれない。気の毒です。
大阪も、昼間人口と夜間人口の差が、東京23区を抜いて日本一らしく、これまた固定資産税がとれない。
要するに、周辺と市から大阪に通勤とか通学してる人の割合がものすごい多いって事ですよ。
確かに。実感としてそれは分かる。
それで潤ってんだからいいだろ、と一概にも言えず、昼間の人々のニーズに合わせて
莫大な金掛けてインフラ整備しても、その人たちは大阪市に税金は納めてくれない、という悲劇。
結構気の毒な立ち位置です。
他にもいろいろ他の都市に比べて、大阪市は大都市故の不都合を
一手にひっかぶっちゃってる部分があって、
考える以上に大阪市は窮地に立ってますよ。
今思えば橋○さんはようガンバっとった。
それもこれも、そもそも政令指定都市制度が中途半端な妥協の産物だから、という
遠因があって、
前に「大阪都構想」を読んだときにも書いてあったけど、
大阪市では、大分前から(もう70年くらいも)市の構造を変えるべきじゃないか、
という案は何度も出てきてるようです。
府県側を主体にしてまとめちゃう方向に振り切ったのが都構想で
逆方向に振り切ると、大阪市独立、大阪特別市成立へ進みます。

個人的には、現代に自治都市があっても良いと思うんだけどなあ。
(自分が住んでないからって無責任なことを言ってみました)

いや、なかなか。日本の地方行政について、特に大都市の行政について勉強になる本でした。
もっと眠くなるかと思ってたけど、思いの外面白かった。


鍋奉行犯科帳 お奉行様の土俵入り 鍋奉行犯科帳シリーズ (集英社文庫)

田中啓文 / 集英社

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田中啓文著『お奉行様の土俵入り』
いつもの鍋奉行シリーズの第5弾。
今回も、面白かった。
肩肘張らず、ほどほどに時代劇で、最後は大団円なので安心しながら読めます。
お奉行様が出てきたときの安定感といったら!
しかしまあ、食べ物ネタでよくここまで続くなあ。


カラスの補習授業

松原始 / 雷鳥社

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松原始『カラスの補習授業』
こないだ読んだ『カラスの教科書』があまりに面白かったのでつい買ってしまった第二弾。
今回は、前回以上にジョジョネタ満載です。
時々挿入されるラノベネタは、詳しくないので分かりませんが、ジョジョなら分かる。よし。
内容としては、前回入らなかったネタの他、更に専門的な内容なども盛り込んであり、
より一層ディープにカラスフェチになれること必至!
今回も、大変、大変!楽しかったです!!
最近は道でカラスを見かけたら立ち止まって見とれてしまうくらい好きになりました。
こないだ、初めて威嚇されたよ!(嬉しげ)


ソロモンの指環―動物行動学入門 (ハヤカワ文庫NF)

コンラート ローレンツ / 早川書房

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コンラート・ローレンツ著『ソロモンの指輪』
「カラスの補習授業」で何回か言及してあったので読んでみた。
ご本人曰く、当時、周囲には、どう考えても納得できないエセ動物本が溢れてて、
それに我慢できずに書き上げたのが本書らしい。
どうも、動物行動学の草分け的な大御所らしいですね、この方。
まだ方法も確立されていないような頃に、動物を飼うというよりほとんど共同生活しながら
人間が陥りがちな擬人化じゃなく、その動物の行動を客観的に真摯に観察しています。
おまけに、ご本人の動物たちへの愛が随所にあふれてて、読んでてじんわり胸が温まりました。
犬、ネズミはもちろん、コクマルガラスをはじめ各種鳥、魚に至るまで、色んなものを
家の中に放し飼いにしたり庭の小屋で飼ったり。
いくら偉い教授やいうても、よう奥さん我慢したな。と一読者にまで同情せしめる変わり者っぷりですよ。
でも、逆に言えば、本当に動物のことを考えて飼うってそこまでの覚悟がいるものなのかもなあ。
もともとカラス目当てでこの本を買ったので、ワタリガラスやコクマルガラスの章は
もちろん面白かったのですが、他にもハイイロガンの章とか、アクアリウムの章、
飼いやすい動物についての章とか、バラエティに富んでて、どれも楽しく読めました。
犬についての章は、ジャッカル由来の犬とオオカミ由来の犬の違いについて書かれてて、
へー、なるほどなあ。と思ってしまった。
ジャッカル由来の犬の方が人なつっこいんですって。
オオカミの血が濃いほど、主に忠実に。日本犬はこのタイプですよね。
確かこの人、犬についての本も書いてたはずだから、
そっちも読みたくなってしまいました。
# by mi-narai | 2016-06-26 10:31 | 2016年上半期の読書

『植物学「超」入門』『世界の名前』『カラスの教科書』

今年も最寄りの博物館で古代ギリシャ展があると聞いて、うはうはしております。
K市の博物館、パイプがあるのはエジプト関連だけかと思ってたら
意外とその他の古代文明も網羅してるのね。
有難いことですよ。



逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

渡辺 京二 / 平凡社

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『逝きし日の面影』

正直に言います。アマゾンレビューが良かったから買いました。

著者の著作目的を簡単に言うと、
今の日本は江戸時代からつながっているように見えるが
文明としての江戸とは断絶してしまっているのだ、
その滅びた江戸文明を、当時の外国人の残した記述からたどってみよう、というもの。
自文化というのは、中にいる成員にはどこが特異でどこが普遍か分かりにくいようで、
こういう時外からの視点は文化人類学的アプローチとして有効なのだそうですよ。
著作の中で、若干他の日本人学者の記述に反発するような言及が多いのですが、
…一昔前は、日本なんてダメだ、という見方が大勢を占めてたもんな、
それでなくても、あんまり自国文化を「俺スゲェ」すると下品な感じがするし。
たぶん、この方がこの本を書かれた当時は日本を見直すような言動は受け入れられなかったのだろうな。
(今は日本アゲ情報に溢れてますが)
そんな風潮の中、あえて「もっとフラットに自国文化を見て見ようよ!」
と頑張ってみたのがこの本です。
著者も再三しつこいくらい「いや、自国文化を自慢したり、やっすい愛国心に
まみれたいわけじゃないねん」と書いてて、そこは誤解してほしくないようです。
確かに褒める記述は幾分多目ですが、
大抵その頃の外国人て鼻持ちならん西洋史上主義に毒されてるから
貶す記述は今見たら鼻で笑っちゃいそうな理由だろうし、
そちらを必要以上に取り上げる必要もない気がしますもの。良いのではないでしょうか。

構成は、テーマ毎に外国人の著述が集められ、それを元に当時の文化を考察するという
形になっています。割合真面目な内容です。
面白かったよ。
繰り返しが冗長でしたが、へー、昔はそんなんだったんだな、という驚きと
昔からこんな感じだったのか、という安心感のどちらをも感じました。
特に江戸から明治に掛けての記述に「日本人は子供にメロメロだった」、という
のがあって、心があたたまりました。


植物学「超」入門 キーワードから学ぶ不思議なパワーと魅力 (サイエンス・アイ新書)

田中 修 / SBクリエイティブ

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田中修著『植物学「超」入門』
またも職場の超絶かわゆらしい上司にただでもらったので!
いつもありがとうございます!
今回は、植物についての基礎知識、そこそこ踏み込んだ内容を、
大変にわかりやすく簡単な言葉で丁寧に説明してある本でした。
ひとつのトピックに付き大体2ページほどなので、途中でなんのはなしか分からなくなる心配も皆無。
読者に優しく、植物学知識も増え、少し難しい内容やこぼれ話ににやりとし、
ひいては人々の植物に対するさらなる興味をかき立てることにも成功したいい感じの本だと思います。
流石に田中先生のご本はこれまで何冊も読んだので、これ、知ってるで、という
箇所もあるのですが、そうして少しずつパターンを変えながら繰り返して読ませ
植物の情報を人々の長期記憶に刷り込もうという、遠大なる計画な訳ですね、
分かります。理系の学生増えろ!
先生は教育者の鑑でございますよ。
知ってる知識ばかりだと思ってたらちらちら知らないネタもあったりして、
これは、好きな方の本だった!


世界の名前 (岩波新書)

岩波書店

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『世界の名前』
岩波書店辞典編集部が編纂してます。
その言語の専門家が専門言語の人名に特化して2ページほどにまとめて書いた物を
集めた新書。これが面白くないはずがない!!
世界中の地域が網羅してあって、アジアも東、東北、東南、南、西、
ヨーロッパもスラブから北ゲルマンにロマンス諸語、
南北アメリカ、洋上の島々、オーストラリア、
いろんな場所の、思いがけない名前の付け方とか知れて、
すんごい楽しかった!!
もともと名前の付け方とかにものすごく興味があるので!
例によって、ちらちら思ったことを箇条書きに。

・文字を持たない民族ほど名前が赤ん坊が生まれたときの状況説明っぽくなるのは面白い。

・カメハメハって、亀はめ波では勿論無く、カ+メハ(×2)だったよ!衝撃!!
しかも、長い王名の真ん中変の一部だった!(これは良くあること)
カが名詞に付く定冠詞っぽいなにかで、メハが一単語で、繰り返して「寂しい」って意味なんだって!

・現在の名前の混交具合から、過去の歴史をひもとけるのは面白いなあ。
系統の違う名前が一定の割合で混じってたりするの。

・宗教力も半端ねぇ。特に一神教。聖書の名前が世界には溢れすぎ!

・スラブの辺りの、名字の語尾で国が分かるってやつ、面白い。
~ヴィリだとグルジアとか。スケート選手でゲデバニシヴィリっていたなあ。

・父称を使うのは、スラブとアラブとアイスランドくらい?

・時々文学上の名付けの話も載ってて、これまた興味深く読みました。

・最後の辺り、母校の先生の寄稿があって吃驚した。おおっと。

・日本でも昔は7歳くらいまでは神の子、みたいに考えてたっぽいけど、世界各地で
この風習はあったのね。乳幼児の死亡率の高さの問題でしょうか。

・スーザンって名前がエジプト起源て、マジか!

とりあえず、いろんな先生のネタ話をつまみ食い出来るおもしろさがあって。
お勧めです。


外国語を学ぶための 言語学の考え方 (中公新書)

黒田 龍之助 / 中央公論新社

スコア:


黒田龍之介著『外国語を学ぶための 言語学の考え方』
「世界の名前」が2ページにぎゅっとエッセンスを詰め込んだ本だったので、
それに比べたら内容が薄いと感じてしまいましたが、
著者に失礼ですよね。わかりやすく、読みやすく、とっつきやすい語学本です。
これまではもっと具体的な言語について書かれてた印象なのですが、
今回は一瞬それとは分からないものの最後まで読み終わると、言語学の大枠や
重要な用語についてざっと分かるようになってるんだなあ、と思いました。
読まされてる感はないのに読み終わるとちゃんと言語学の用語やその用法が
ざっくり頭に入ってるのはすごい。


カラスの教科書 (講談社文庫)

松原 始 / 講談社

スコア:


『カラスの教科書』
動物行動学カラス専門の著者による、
まるまる一冊カラスについて書かれた本。
あー。楽しかった!!
狼好きであると共に、カラス好きでもある私、
大変に楽しんで読んだことを告白します。
全てのページをドキドキしながら目で追いましたよ。
ワタリガラスの神話を知って以来カラスファンなので!
朝道で見かけたら、今日一日良いことありそうだな~と思うくらい好きです。
で、この本、カラスの種類から一生、習性、縄張り、対処法など
項目別に書いてあるのですが、例によって思ったことを箇条書きに。

・ハシブトガラスとハシボソガラスが日本に多い種類なのは知ってましたが、
ようやくきちんとした違いが分かりました。
鳴き声がクリアなのはハシブトらしいから、家の近所、職場の近所にいるのはハシブトだな。

・都市にこれだけカラスがいるのは日本くらいで、海外ではもっと小さいカラスがいる程度らしいよ。
特にハシブトはもともと熱帯の森に住んでたらしく、東南アジアの人にとっては
今でも森にいる鳥なんだとか。

・生ゴミを漁るカラスですが、中南米ではその役割をコンドルが負ってると聞いてふるえました。
パネェ…

・カラスの名前の根拠が「カー(鳴き声)」+「ス(鳥につける語尾)」というのも書いてあったよ。

・ワタリガラスって、全体が大きいのもあるけど、羽も細長くって、他のカラスと違って
滑空するように飛ぶんですってね。カッケェ…!!!!!

・カラスと猛禽の関係の項では、猛禽の能力値の高さに震撼しました。

・カラスの子供愛に頭が下がります。攻撃してくるのは大体子供を守るときだけで
それも足で蹴るくらいらしい。

・昔、友達から「小さい頃カラスに口にくちばし突っ込まれてから怖い」という話を聞きましたが、
今思えば、子ガラスに餌やる感覚だったんじゃないかなあ。
赤い色とか見ると、鳥的には餌をやりたくて溜まらん気持ちになるらしいので。

・鳥には紫外線が見えてるらしい。鳥の目には世界はどんな風に見えているのかなあ。

・反対に嗅覚はほとんど効かないらしいですよ。

他にも、ページをめくる度にいちいち「へー」と思いにやにやしたものですが、
にやにや回数が多すぎて全てを書き切れません。
自分の子供間違えた話とか、著者がカラスの親にめっかって肝冷やした話とか
面白かったです。カラス万歳!


もう年はとれない (創元推理文庫)

ダニエル・フリードマン / 東京創元社

スコア:


『もう年はとれない』
異色の後期高齢者ハードボイルド
主人公はなんと87歳です。
でもハードボイルド。
人物設定としては、ユダヤ系のアメリカ人で、第二次世界大戦にも従軍し、
その際捕虜収容所ではドイツ人看守のせいで酷い目に遭い、
その後は殺人課で刑事一筋うん十年勤め上げた叩き上げのマッチョなんですが、
寄る年波には勝てず、今ではただのよいよいのおじいちゃんです。
たいてい、年寄りが主役の場合、二流の物語だと、年寄りのくせに強いとか、
スーパーじいちゃんになってて、加齢によるデメリットをファンタジーで打ち消すのですが、
この物語では、じじいはじじいです。
銃に撃たれることと、転倒して骨折って死ぬことが同列だからね!
めちゃめちゃ無力だからね!!
武器は刑事次代のノウハウと修羅場をくぐり抜けて培われた胆力のみ。
そんなじいちゃんが、知り合いの臨終の際、
捕虜収容所で自分をいたぶってくれた憎いドイツ人が実は生きてて
しかも金塊を隠し持ってるという隠し情報を聞いちゃったところから物語はスタート。
今時の若者である孫と二人、ドイツ人の追跡に乗り出します。

あんまりハードボイルドは得意じゃないけど、意外に面白かった。
次々と起こる殺人とそれに関する推理がテンポよく進み、飽きずに最後まで読みました。
アメリカにおけるユダヤ教徒の視点も興味深かった。
# by mi-narai | 2016-05-14 17:09 | 2016年上半期の読書