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英雄が語るトロイア戦争

英雄が語るトロイア戦争 (平凡社ライブラリー ひ 8-1)
ピロストラトス / / 平凡社
ISBN : 4582766528
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今日仕事帰りに本屋で見つけた一冊。
(ホモ漫画目当てで本屋に寄ったなんて言えやしない、言えやしないわ…)
著者が2世紀の人で、比較的新しい時代の作品だし(前8世紀の作と伝えられるホメロスに比べたらな)、
読んでけったくそ悪なりそうな予感がプンプンしたんですが
「わたしももう大人、都合の悪い真実から眼を背けてはいけないわ。それに、とりあえずトロイア本だし。買っとけ!」
と自分を叱咤激励して買ってみました。
(ほんとうは、ホモ漫画だけ買うのもアレだったので真面目な本もフェイクで混ぜた)
で。真面目に読むのもしんどかったので帰りの電車でざっと飛ばし読んだ。


えー。
この頃大流行だった、ホメロスとは違う視点からトロイア戦争を捉(えようと足掻)いたなんちゃってトロイア本です。
本の中の語り手である農夫(2世紀当時の一般人)が、生き返ったプロテシラオス(トロイアの浜辺に真っ先に飛び降りて死んだ人)から聞いた話を、旅人のフェニキア人(大体旅人はフェニキア人と決まっておる)に話すという趣向です。

物語が別段あるわけではなく、農夫と旅人が、
「プロテシラオスが生き返ったって事は他の英雄も行きかえっとんの?」
「生き返りはしてへんけど、各地で力をふるっとるらしいよ」
「あー、色々祀られてるもんな」
「ある地方では、ヘクトールが祀られてて、彼に敬意をはらわなかった愚かな若者にひどい罰をくだしたってねー」

「トロイア戦争に出てくるあの人物は、プロテシラオスによれば実際はこんなだったんだってさー」
「へー」
などと会話する形式なので、どっちかというと、会話の形をとった作者の評論みたいな感じ。
プロテシラオスが生き返って語るという設定こそファンタジーですが、トロイア戦争の出来事に関しては、当時の常識に照らし合わせてなるべく現実的に分析してみる、という視点に貫かれています。
(なので、なぜかアキレウスのアガメムノンに対する怒りのわけは、親友のパラメデスが殺されたせいになってる。女がらみじゃいかんらしい。他にも色々チン解説があったけど、忘れた。
ちなみに、『オデュッセイア』における放浪譚は全て与太話ってことになっておる。
『オデュッセイア』に関しては、現代でこそ、アレには民話の筋が混ざってるんじゃないかとか、他のオデュッセウス関連の伝承がこれだけ入っているとか、歴史が神話に反映されているのでなくて神話が歴史の如く語られているとか、そういった捉え方も出きるけど、当時にしたらあれが限度なんだろうなあ…)

ホメロスの作品のそれぞれの主人公、アキレウスとオデュッセウス以外の登場人物にスポットを当てる、というのが作者のコンセプトのひとつらしいので、ホメロスには語られておらず、かつ2世紀の作者の時代にまで伝承の残っている他の英雄たちのエピソードがちょっとだけ語られてるのと、2世紀のこの頃、ホメロスの英雄たちはキリスト教の聖人たちみたいに各地で崇拝を受けてたらしくて、そんな英雄崇拝の様子が垣間見える点は、興味深かったです。

後、パラメデスとアンティロコスとプロテシラオスがやたらきらきらしく書いてあるから、このあたりの若手だけど目立たないトロイア戦争の英雄たちが好きな人にはたまらん一冊かも。
とりあえず、パラメデスファンの君は買っとけ!

で、いつものことですが、予想通りオデュッセウスとメネラオスは酷い描かれようでした。
毎回メネラオスは本当に気の毒だと思います。
なんでいつもあんな悪し様なの!?スパルタ王だから!?
そうよね、この作者もアテナイで学んだらしいもの、あからさまなスパルタバッシングなのよね………。入り婿なのに~~
反面、オデュッセウスは、こんなもんかなと思います。ホメロスがむしろ例外なのですよね。数ある伝承の中で、ホメロスはオデュッセウスのいいところだけを拾ってる感じがする。なので、他の伝承も知ってる人から見ると、ホメロスはオデュッセウスを贔屓しすぎ、こいつはホントはもっと悪人だ、という流れになる。
時代が下るにつれ、それがどんどんエスカレートもし、倫理観も変わったろう。
オデュッセウスをこき下ろすことは知識人の一種のステータスなのですよ。(多分な)
いやあ、もう、貶されっぷりたるや、すごいよ!でも、この時代の作品で持ち上げられてる方が気持ち悪いので、いっそ悪し様に言われてる方が落ち着く。













……と、頭で思っちゃいるものの、やっぱり贔屓の人たちが悪し様に言われているとそれなりに悲しかったですよ。という話。慣れたけどなッ(虚勢)!
by mi-narai | 2008-10-15 00:36 | 2008年10月の読書
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