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『「コーラン」を読む』 『死ねばいいのに』 『クリスマスのフロスト』

『コーラン』を読む (岩波現代文庫)

井筒 俊彦 / 岩波書店

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井筒俊彦著『「コーラン」を読む』読了。
ギリシャ神話とか、世界の神話を読みあさり、こないだ一神教の本も読み、
新約、旧約の内容もざっくりとはしってるのに、
コーランだけ知らんのも片手落ちかと思って。

この井筒先生、ものすごくよく名前を聞くお方ですが、
帯の部分の著者来歴を見たら、もう随分前にお亡くなりになってますね。
そうかあ…。

で、この本ですが。井筒先生が「コーランを読む」というタイトルで
10回の講義をなさった時の講義内容の記録本です。
一般向けにお話しなさっているため無知蒙昧なワタクシのような輩にも分かりやすい!
ええ!とっかかりは分かりやすい本でないとね!
まず、最初は、井筒先生がこれから講義で行おうと思っている
コーラン読解の方法の説明から始まっています。
それが文献学的というか、
大きなお話の流れを追う、コーランを物語と捉える読み方じゃなく、
語を一字とって、その語が当時のアラブ社会の中で、どういう意味をもっていたのか、
預言者ムハンマドはどういうつもりで言ったのか、
当時のアラブ人はどういうイマジネーションを働かせたのか、
コーランの世界観、みたいなことを、いちいち考えつつ深く掘り下げていく読み方です。
たとえば、イリアスだったら、「王」(バシレウスだっけ)の一言を考えてみるとしましょう、
日本人が普通王って聞いたら、頭に王冠かぶって白いひげでおなか出てて赤いマントかなんか羽織ってる
暢気な顔したおじさん思い浮かべない?
他、ルイ14世みたいな絶対君主とか、ローマ法王とかさ。
でもイリアスにおける「王」って言ったら、どっちかというと、都市を中心とした狭い範囲を領有する
領主の強力バージョン、みたいなもんじゃない、幾人もの王が並び立ってるしさ。
イタケ人なんかは他の領民に結構突き上げ食らってるし。
あんまり絶対的な権威がないというか。
だから、イリアスで「王」という語を見る時には、厳密には日本人の普通思い浮かべる王さまでなく、
当時のギリシャ人が想像してたところのイリアスの世界観における王を考えないといけないと。
死ぬということが当時のギリシャ人にとってはどういう感覚であったとか、
奴隷より低い根無し草の日雇い労働者になるのがどれほど心細いかとか。
そういった部分部分をイリアスの世界観に則して叙事詩の文脈を汲みながら読むように、
いちいち当時のアラブを考えながらコーランを読み解いていくわけ。

こんな感じでコーラン全部読み解いてたらきりがないので、
講義で読むのは開扉の章 わずか7行かそこらなんですが、
それでも本1冊分という凝縮ップリ。

これがね!
思ったより面白いんですよ!!

読むと決めたものの、きっと退屈なんだろうなと半分諦めながら本を開いたのに
嬉しい意味で予想を裏切られました!
上述のアプローチの仕方が好みなのと、
読んでいくうちにパーっと周りに当時のアラブ社会が色鮮やかに広がるような感じがして楽しいのと、
単純にアラビア語の語感が面白いのとで
毎日2ミリほどではあるものの、途中で眠ったりせずに確実に読み進めることが出来ました。

以下、心に思ったよしなしごとを箇条書きに
・アラビア語で良く聞く
「ビスミッラー」
これって、アラーの名においてって意味なのね。
「ビスミッラーアッラフマーニアッラヒーム」で
「慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において」て意味なんですが、
この、慈悲深く(略)って言葉、全くこのままのフレーズで
アラビアンナイトはじめアラブの本読んでたらしょっちゅう事あるごとに出てくるけど、
なんと最初にこう訳したのは井筒先生その人らしいですよ。

この人だったのか!!!

・神の本質の美しさ
イスラムにおける神の本質というのは、美しさ、光、優しさ、などだそうで。
もちろん、神には恐ろしい局面(ジャラール)もあるけど、本義は明るい面(ジャマール)なんだって。
なんとポジティブな希望にあふれた神象であることよと驚きました。いいんじゃない。

・コーランが書かれた文体を考えるにあたって、
当時のアラビアのシャーマニズムとかさらっと述べてあって
それがまた面白い!!
コーランの文体はサジュウ調という調子で書かれてるらしいんだけど、
これが一定の間隔で鳴らされるドラムの低い音を連想させる調子というか、
脚韻がものすごい踏んである文体らしいのですよ。
ホメロス大先生の六脚韻(ヘキサメトロンだっけ。うろ)って
なんか、詩人が美声で朗々と神に捧げる態で(まあ実際は聴衆に向かって)
叙事詩を歌い上げてるイメージなんですが、
このサジュウは全くそれと違う感じ。
当時のシャーマンは現地の言葉でカーヒンというらしいんですが 
いずれも一人ジンを持ってたんですって。で、そのジンに憑かれて予言をする。
どっちかというとピュティアとか、日本の狐憑きとかそっちに近い感じだったらしい。
そのジンに憑かれたカーヒンが、低い声で囁くように予言するその調子がサジュウ調なんだそうな。

今のトルコの歌とか、確かに韻踏んでるもんな、
伝統的にそういう傾向があるのかしら…

・現在イスラム社会における女性の地位の低さが方々で問題視されてますが、
ムハンマド自身は、意外にも女性に対して普通っぽい。
最初の奥さんハディージャさんってのが、だいぶ年上だけど、美人で気が強くて
肝っ玉の座った女傑で、ムハンマドはなんかあるとすぐこのハディージャさんのところに
駆けこんで泣きついてたみたい。
なんか、思ったより、コミカル、だな…。
(井筒先生の語り口のせいかもしれませんが)
ちょっとムハンマドに対する好感度が上がりました。
じゃあ、現代社会の問題は宗教ってより政治とか現地の慣習の方が比重が高いのかな…

・ムハンマドは商人で、クライシュという名門部族の出身というのは
世界史の教科書にも載ってたし知識としては知ってましたが、
今回この本読んで、ベドウィンとのメンタリティーの違いを痛感させられた気がします。
どちらかというと、慣習を重んじるそういった遊牧アラブの常識に
まっこうから対立し、イスラムのもとでの平等を推し進めようとしたっぽいです。
その根底には、砂漠を遊牧するのでなく、オアシスに定住して
神殿を中心に宗教生活を送っていた人々のメンタリティーがあるのだそうな。
それって要するに、メソポタミア系の神殿文学の世界だそうですよ。

「コーラン」の真ん中あたりには
アラビアの民間伝承っぽい話だって混じってるらしい。
洞窟で300百年眠ってしまった男たちの話とか
(浦島太朗とかオシアン系のアレ)、
モーセの滑稽話とか、二本ヅノのアレキサンダーの話とか。

ぼんやり分かってたけど、言われてみれば、確かに、
アッシリアもバビロニアもセム系だもんな。
あの神話体系の流れとか、民間伝承を引き継いでいると思うと
一気に興味がわいてきませんか?


文庫版 死ねばいいのに (講談社文庫)

京極 夏彦 / 講談社

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京極夏彦著『死ねばいいのに』読了。
借りた本です。
先だって、日本作家の本はすぐに読み終えちゃうけど、京極はそうでもないやろ、と
思ってたのですが、京極本もすぐに読み終えちゃった…。
同じ日本人が文章を書いているから読みやすいのでしょうかねえ…
(後、外国人はあまり改行しないイメージがある)
で、本の内容。
最初は、話を聞いて回るケンヤという若者が何回も「自分、馬鹿っすから」
みたいに言うのがウザく、また、聞かれてる人が悉くこのケンヤを
煩わしいと思ってるのが伝わってきて、イライラさせられるのですが、
最後の最後でやられました。

お前、そうやったんか…!

分かった!と思った瞬間、印象が逆転した。


クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

R.D ウィングフィールド / 東京創元社

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R・D・ウィングフィールド著『クリスマスのフロスト』読了。
これまた一度読んだ本なんだけどまた読み返したくなってさ。
イギリスの地方都市が舞台なのは一緒だけど、
ダイヤモンドの方と違って、小さな事件が畳みかけるように
次々と起き、読んでるうちに

ああ~……やってもやっても仕事が終わらない…

という、社会人なら誰しも一度は(もしくは毎日)感じている
あの感じを味わえます。
ほら、前の仕事が終わらないうちに次の仕事、その次の仕事と
仕事が増え、どんどん手を出して、
ふと「あれ、なんか前の仕事終わってなかったような気がするけど
自分が何を忘れているのか思い出せないッ!」と我に返る、みたいな。
主人公も、全く推理力があるわけでない、くたびれた中年のおっさんで、
しかも、これが全然かっこよくない。
しかし、かっこつけが嫌いな私、このおじさん、割と好感触です。
自分がダメなことを自覚していらっさるので。
上司とか部下にこのタイプがいたら、ものすごく困るだろうなあとは思うんだけど、
それでもダメさ加減に深く、ふかあ~~~~く共感してしまうあたり、
自分も大概ダメ人間だなと読んでて半笑いになってしまいました。
いや、このくらい自分のダメップリを直視できる勇者にわたしもいつかなりたいものです。
頑張ります、フロスト先輩!
主人公フロスト警部の人となりは置いておいて、次々事件が起こり、ぐいぐい読ませる部分、
多彩な登場人物のキャラの立ち具合など、
流石ベテラン脚本家の書いた本だと唸らせられます。
なにより、そんなに深刻にならないし。深刻なシーンでもやりすぎるとわざとらしいじゃない。
デントン警察署のいかにも地方って感じの、ガチャガチャした雰囲気も結構好きで、
なかなか楽しく読み終わりました
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by mi-narai | 2013-05-06 20:43 | 2013年上半期の読書
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